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訪問歯科で「気をつけること」完全ガイド!保険請求・届出・衛生面の要点を解説

コラム

訪問歯科診療は、高齢者や障害のある方を中心に「通院が困難な患者さん」に対して医療を届ける重要な制度です。しかし、その制度運用には届出や保険請求、衛生管理など、押さえるべき気をつけることが多数存在します。

本記事では、訪問歯科における保険制度の要点や、現場で特に気をつけることを網羅的に解説します。

訪問歯科診療の対象となる患者さんとは

訪問歯科診療の適用可否を左右する最大の基準は、「通院の困難性」にあります。

ここで重要なのは、年齢や要介護認定といった制度上の基準ではなく、実際に患者さんが自力で歯科医院に通うことが医学的に困難かどうかという点です。

すなわち、要介護の有無は補助的な指標に過ぎず、訪問歯科診療の対象となる患者さんの決定権はあくまで歯科医師の医学的見地に委ねられているのです。

対象となるのは高齢者に限られません。たとえば、脳血管障害による片麻痺やパーキンソン病の進行、慢性心不全によって歩行が困難な方も含まれます。

加えて、認知症による移動制限や、がんの終末期における在宅療養中の患者さんも、訪問歯科診療の適用を検討し得るケースといえるでしょう。

このように訪問歯科は、特定の属性に閉じた制度ではなく、「歯科医院に通えない」現実に柔軟に応える医療資源です。

真に必要な方に、必要なときに、適切な形の提供を実現することこそが、訪問歯科の制度の本質といえるでしょう。

※参照元:一般社団法人 日本訪問歯科協会

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訪問可能なエリアの原則と例外について

訪問歯科診療において「どこまで診療に行けるか」は、保険制度上の重要な論点です。

原則として、保険適用が認められるのは、歯科医院(保険医療機関)を起点に半径16km以内の範囲とされています。

この距離は、介護保険や医療保険における算定可能な区域として規定されており、訪問歯科診療に携わる歯科医療者が保険請求を行ううえで、まず押さえておくべき基本的な枠組みです。

ただし、患者さん側の希望でこの距離を超えて訪問する場合、その訪問歯科診療は保険外、すなわち自費診療扱いとなる点に注意が必要です。

この判断を誤ると患者さんとのトラブルに発展しかねないため、説明事項の整理など、気をつけることが複数存在します。

一方で、離島や山間部といった交通アクセスが極端に制限される地域では、例外的に保険適用が認められることがあります。これは個別に届出や指導が必要となるため、事前の確認は訪問歯科診療を行ううえで欠かせません。

また、訪問歯科が可能な生活の場とは、あくまで施設や居宅など、患者さんが日常的に寝泊まりしている場所に限られます。

通所施設(たとえばデイサービス)など、一時的な滞在場所は保険算定の対象外となるため、施設側との認識のすり合わせも含めて、実務上の気をつけることのひとつです。

※参照元:一般社団法人 日本訪問歯科協会

訪問歯科で気をつけること~届出準備・保険請求・算定ポイントを整理~

訪問歯科における診療報酬の請求は、すべて医療保険を用いて行います。制度理解と事務処理の精度が求められる分野であり、特に気をつけることが多い領域でもあります。

訪問歯科の実務において土台となる、各種届出・保険請求・算定ポイントについて解説します。

※参照元:一般社団法人 日本訪問歯科協会

診療報酬制度・算定方法について

歯科訪問診療料の算定

以下の表は、訪問先での患者数に応じた診療報酬の点数体系を示しています。診療時間が20分以上か未満かで算定点数に大きな差が生じるため、適切な時間管理が求められます。

訪問歯科診療料同一建物数居住者20分以上の診療時間20分未満の診療時間(低減点数)
歯科訪問診療料11人1,100点
歯科訪問診療料22~3人410点287点
歯科訪問診療料34~9人310点217点
歯科訪問診療料410~19人160点96点
歯科訪問診療料520人以上95点57点

診療時間に含まれない時間

以下の時間は、診療報酬上の「診療時間」には含まれません。訪問歯科における算定ミスを避けるためには、この定義を正確に理解しておく必要があります。

  • 診療の準備および片付けにかかる時間
  • 移動にかかった時間
  • 訪問歯科診療と併行して実施した訪問衛生指導に関する時間
  • 患者さんの家に滞在・宿泊した時間

管理・指導料の請求区分

管理・指導料は、施設区分や介護保険の有無によって「医療保険」もしくは「介護保険」で算定します。

訪問先の施設区分適用保険備考
病院・介護保険施設

(例:介護老人福祉施設、介護老人保健施設など)

医療保険介護認定の有無に関わらず医療保険で算定
居宅・居住系施設
(例:自宅、有料老人ホーム、グループホームなど)
介護保険または医療保険介護認定があれば介護保険、なければ医療保険を適用

参照元:訪問歯科診療で介護保険証が必要な施設区分と保険証の有効期限の管理法

訪問歯科診療を行う歯科診療所の届出について

保険医療機関として登録された歯科医院であれば、訪問歯科診療の実施に際して特別な許可を要するわけではありません。

ただし、「施設基準の届出」を行うか否かにより、診療報酬に大きな差が生じる点には十分留意すべきです。

特に訪問歯科での収益性を考える場合、加算の可否は事業運営に直結するため、事前準備で気をつけることのひとつといえます。

歯科訪問診療料の注15に規定する施設基準の届出

歯科訪問診療料における「注15」とは、訪問歯科診療を実施した患者さんの割合が直近1か月で9割5分未満であるという基準を指します。

この条件を満たしたうえで、所定の施設基準を届け出ることで、歯科訪問診療1・2・3・4・5(1,100点/410点/310点/160点/95点)が算定可能となります。

届出状況算定できる点数
届出なし初診267点/再診58点
届出あり歯科訪問診療1〜5(最大1,100点)、その他加算も算定可能

在宅療養支援歯科診療所(歯援診)

在宅療養支援歯科診療所は、在宅または福祉施設における療養患者に対し、歯科医療の提供体制を強化する役割を担う診療所です。

歯援診の届出を行うことで、一般診療所よりも高い点数が認められる各種加算が算定できます。

在宅歯科医療専門の在宅療養支援歯科診療所

届出の直近1か月間の診療患者のうち、訪問歯科診療の患者さんが95%以上を占める診療所「在宅歯科医療専門の在宅療養支援歯科診療所」として、さらに高い施設基準の届出を行うことが可能です。

訪問歯科診療に関連する申請・届出

訪問歯科診療に関わる申請や届出は、上記の手続き以外にも多岐にわたり、それらを適切に整えておくことで加算算定や報酬の最大化、緊急時の対応体制の構築が円滑に進みます。

以下に、主要な届出の名称・内容・得られる加算を一覧に整理しました。

届出名主な概要・施設基準得られる加算
初診料の注1に規定する届出(感染防止対策)滅菌・感染対策、研修受講、掲示・報告体制など院内感染防止対策を整備届出なしだと歯科訪問診療1~5まで、注15または注19に規定する各所定の点数から10点減算
口腔管理体制強化加算の届出訪問・外来の算定実績、歯科医師・衛生士配置、地域連携など多要件最大で10種以上の加算点数UP(例:補助加算115点、移行加算150点 等)
在宅歯科医療推進加算の届出在宅中心の診療体制を証明(月平均延べ5人以上、うち6割が訪問診療1を算定等)歯科訪問診療1を算定した日に100点を加算
歯科訪問診療料の地域医療連携体制加算の届出緊急時に他医療機関と連携し、情報共有体制が整備されていること歯科診療に必要な情報を提供した場合に300点加算(1回限り)
在宅患者歯科治療時医療管理料の届出常勤スタッフ体制・全身管理の装備・緊急時の連携体制の整備在宅患者歯科治療時医療管理料が算定可能に
生活保護・中国残留邦人等支援法の指定申請生活保護受給者に対し、介護扶助・医療扶助で診療を行うために必要対象患者に対し、保険請求が可能に(医療・介護費全額公費)

 

「ここが要注意!」訪問歯科で特に気をつけること10個

訪問歯科診療は、施設や在宅にて患者さまを支える重要な医療サービスである一方、その特性ゆえに留意すべき点が多岐にわたります。

ここでは、訪問歯科の現場で実際に生じやすいリスクや運営上の盲点をふまえ、気をつけることを10の視点から整理し、各項目ごとに押さえるべきポイントを解説します。

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1. 介護サービススタッフとの連携ミス

訪問歯科の現場で最も多いトラブルの一つが、ケアマネジャーや施設スタッフとの連絡不備です。連携が甘いと、患者さん宅や施設への訪問予定が突然キャンセルされるケースも珍しくありません。

こうしたトラブルの多くは伝達漏れによるもので、患者さんのケアプランやスケジュールの擦り合わせが不十分なまま訪問してしまうことにもつながります。

訪問歯科診療の前には最低でも8〜12時間前に担当スタッフとの業務確認を行い、確実な情報共有体制を築くことが不可欠です。

2. 保険算定・届出

訪問歯科診療に特有の保険算定ルールや届出義務は、一般外来と比べて格段に複雑です。なかでも届出関連は見落としが起きやすく、適切な手続きが行われていない場合、加算の不算定や請求否認のリスクが生じます。

加えて、保険制度は頻繁に改正されるため、常に最新の情報をキャッチアップし続ける姿勢が求められます。こうした制度運用上の気をつけることをチーム内で共有し、定期的に見直す仕組みを整えておくと安心でしょう。

3. 訪問前後の衛生管理・感染対策

訪問歯科では持参する器具の清拭や消毒、患者ごとに使い捨て器材の使用徹底が欠かせません。施設や在宅での環境も多様なため、衛生面の管理には細心の注意を要します。

特に感染症対策の基本を遵守し、消毒用アルコールや滅菌済み器具の携行は必須です。また、訪問先施設の衛生管理状況の確認も訪問前に行い、必要に応じて指導や改善提案を行うことで、安心・安全な診療体制を築きましょう。

4. 保険点数表に基づいた、加算条件の正しい理解

訪問歯科での保険請求は、時間外対応、義歯調整など状況に応じた加算要件が細かく規定されています。

これらの条件を正しく理解し、各訪問に応じた算定リストをあらかじめ作成しておくことで、請求漏れを防止し収益の最大化を図れます。

算定ミスは返戻や監査の原因ともなるため、訪問歯科スタッフ全員で共有し精査を欠かさないことが肝要です。

5. 施設ルール・マナーの徹底

訪問先の施設には、独自の服装規定や動線管理、物品持ち込みに関するガイドラインが存在することがあります。これらを軽視すると、信頼関係の損失につながりかねません。

また、訪問歯科の現場では、診療行為以前に「どう接するか」が問われる場面も多く、施設文化への配慮や丁寧なコミュニケーションは、信頼構築の前提条件といえるでしょう。訪問前の確認事項のなかでも、施設マナーは特に気をつけることの一つです。

6. 患者さん・家族との対話による信頼構築

認知症や意思表示が難しい患者さんの場合、治療内容の説明や同意取得において、ご家族との連携が極めて重要です。

訪問歯科では、単に処置を行うだけでなく、ご家族との関係性を築きながら丁寧な説明と合意形成を図る必要があります。事後説明も含めた一貫した対話姿勢が、信頼の土台となるでしょう。

7. 余裕を持った時間・ルート管理

交通事情や施設内での待機時間も考慮しながら、余裕あるスケジュールを組むことは、訪問歯科診療の質を支える前提条件です。

過密な予定では患者対応が雑になるばかりか、衛生管理や説明時間も削られかねません。訪問前に地図やルートアプリを活用し、効率的かつ確実な動線を確保しておくことが、実務上の重要なことです。

8.同行スタッフへの「事前指導」を徹底

歯科衛生士や歯科助手などの同行者に対しては、診療マナー、感染対策、文書管理に関する指導を事前に徹底することが必要です。

特に訪問歯科では現場判断を伴う場面が多く、スタッフの判断力や応用力も安全・安心な診療体制に直結します。想定問答やシミュレーションを通じて事前準備を強化しましょう。

9.立位診療に備えた準備

訪問歯科ではチェアが使えない状況も多く、立位診療に慣れておくことは、訪問歯科における基本スキルの一つです。

適切な姿勢を維持しながら効率的に処置できる体の使い方は、術者の疲労軽減にも寄与します。特に高齢患者や複数訪問が連続する日は、こうした姿勢技術が診療効率と職業的健康の両立に欠かせません。

10.術式を想定した現場ごとの動線設計

訪問先の物理的環境、たとえば照明位置、電源の有無、ベッドの高さは千差万別です。術式に応じた器材の配置や照明の確保などを、あらかじめシミュレーションしておくことが、無駄のない動線設計と円滑な処置につながります。

このように、訪問歯科は現場対応力が問われる医療スタイルであり、柔軟かつ戦略的な準備こそが診療の質と患者満足度を高める鍵となるのです。

まとめ

訪問歯科は、施設・在宅を問わず、通院が難しい患者さんに歯科医療を届ける社会的意義の高い取り組みです。ただし、診療報酬の届出、保険請求、現場での衛生対策など、気をつけることは多岐にわたります。

そのため、煩雑な事務処理やミスの防止には、信頼できる管理ツールの導入が不可欠です。Apotool&Box for Dentistは、訪問歯科特有の予約や患者情報の管理を効率化し、チーム全体の業務負担を軽減します。

カレンダー画面で複雑な予約状況もわかりやすく表示し、変更やキャンセルも容易であることでアポミスを減らすことができます。

さらに、オプション機能の電子サブカルテ「Medical Box Note」を利用することで、訪問先でのカルテの閲覧や記録が可能となります。カルテを物理的に医院から持ち出す必要がなくなるため、紛失リスクも解消され、安全面でも大きなメリットがあります。ぜひ一度お問い合わせください。


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