歯科医院の開業方法は?必要な手続きや資金、流れを分かりやすく解説
歯科医院やクリニックを開業することは簡単なことではなく、歯科医師にとっては大きな決断となるでしょう。さまざまな手続きや資金が必要となるため、適切な計画と準備が必要です。本記事では、歯科医院・クリニックを開業する際に必要な手続きや費用、開業までの流れについて詳しく解説します。
目次
歯科医師・歯科医院の現状
厚生労働省が行った調査によると、令和4年12月31日時点での全国の歯科医師数は105,267人で、そのうち「診療所の開設者又は法人の代表者」は56,767人となっています。
また別の調査によると、「歯科医院はコンビニの数より多い」といわれるようになって数年、現在も歯科診療所数は年々増加しています。しかし同時に、高い競争率や継承の問題等から廃業する歯科診療所も多くあります。
出典:令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計
出典:令和4(2022)年医療施設(動態)調査
歯科医院の開業パターン
法人または個人事業主
歯科医院を開業する際は、まず医療法人として開業するか、個人事業主として開業するかを決める必要があります。
医療法人として開業する場合、節税や厚生年金を扱えるといったメリットがあります。法人化すると、歯科医師は法人から給与を受け取る形となるためです。社会的信用も得やすいでしょう。しかし、施設や資産の条件など、さまざまな審査をクリアする必要があります。
個人事業主として開業する場合、法人税がかからないため利益を直接受け取ることができます。また意思決定もしやすく、経費処理等も医療法人に比べてシンプルです。しかし医療法人よりも社会的信用が得にくいため、資金調達が難しかったり事業継承が難しかったりすることがあります。
診療科
診療科を何にするかは、歯科医院開業前に専門としていた、あるいは学んでいた科を主に開業することが多い傾向にあります。開業歯科医院の診療科として、一般的なものは以下の通りです。
- 歯科/一般歯科
- 矯正歯科
- 小児歯科
- 口腔外科
- 審美歯科
- その他
歯科/一般歯科
保険診療を中心とした治療を行う歯科医院で、う蝕治療や歯周病治療、クリーニングなど一般的な歯科治療が行われます。専門性を求められる治療は他院に紹介する等で対応することが可能です。
矯正歯科
歯列矯正に伴うう蝕・歯周病治療まで行う歯科医院もあれば、そういった一般的な治療は他院で受けてもらい、自院では矯正治療のみ行うという歯科医院もあります。
小児歯科
主に乳幼児〜成人前くらいまでの患者の歯科治療を行います。小児歯科の治療には主に以下のようなものがあります。
- 予防歯科処置(フッ素塗布、シーラントなど)
- う蝕治療
- 歯列と咬合異常の早期発見・治療
- 口腔内外の外傷・損傷の治療
- 抜歯
- 口腔衛生指導 など
小児歯科では、子どもに恐怖感を与えないよう内装に工夫を凝らすことも多いです。また保護者にも指導したり治療に関する理解を得たりする必要があります。
口腔外科
口腔外科は、口腔内の疾患や損傷等を診断・治療する分野です。一般的な口腔外科手術には以下のようなものがあります。
- 歯・智歯の抜歯
- 口腔内の腫瘍・嚢胞の切除
- 口蓋裂・口唇裂の修復手術 など
なお口腔外科処置は、特殊な設備・技術が必要である点、またリスクが伴いやすい点から、大学病院や専門医院へ紹介することも多いです。
審美歯科
審美歯科とはホワイトニング等で、健康のための治療というよりは歯や口元の美しさを向上させることを目的とした領域です。そのため診療は保険適用外となり、開業する上で利益率は上げやすいといえます。
その他
インプラント治療や歯周病治療、根管治療を専門とする開業歯科医院も多くあります。あるいは上記の診療科を織り交ぜて幅広い患者に対応できるようにしたり、専門医に協力を依頼して曜日によって診療科を変えて開業する方法もあります。
歯科医院開業にかかる費用・資金
開業にかかる費用としては、大きく初期費用と運転資金(開業後、経営が安定するまでにかかる費用)の2つを想定しておく必要があります。
初期費用
歯科医院・クリニック開業時にかかる初期費用は、一般的に5,000万円以上とされています。具体的には、以下のような項目で費用がかかります。
- テナント料/購入費用
- 内装工事費用
- 法的手続きにかかる費用(営業許可・免許申請費、保険料等)
- 広告宣伝費用
- 設備・器具の購入費用 など
なお、設備によっては購入ではなくリースにすることで初期費用を抑えることもできます。また上記は開業する地域や、新規開業であるか継承開業であるか等によっても大きく変わってきます。
運転資金
開業前だとしても、開業後、経営が安定するまでにかかる運転資金はある程度見積もっておく必要があります。具体的には、以下のようなものがあります。
- 人件費
- 家賃
- 光熱費
- 広告宣伝費用
- 維持管理費用(設備・器具のメンテナンス費用)
- その他(歯科材料や備品、消耗品等の補充にかかる費用)など
初期費用・運転資金いずれも、開業時に全額自身で用意しなければいけないわけではありません。一部を自身で捻出し、それ以外は銀行の融資や自治体からの補助金を利用することもできます。
歯科医院開業の準備・流れ
歯科医院・クリニックを開業する準備・流れを解説します。
1.ビジネスプランの策定
まずは根幹となる事業計画・ビジネスプランを立てます。これらには開業の目的やコンセプト、立地、診療内容、主な患者層、資金計画などが含まれます。
例えば「若年層が多い駅近エリアで、自己資金20%で保険外診療を中心とした歯科医院」など、開業したい医院について可能な限り具体的にイメージしておくと、次の計画が進めやすく、かつ軌道修正もしやすくなります。
将来的な周辺地域の開発計画等も、患者層や利益率の想定の参考になるでしょう。また、歯科医院の開業を専門とするコンサルティング業者も多いため、必要に応じて利用を検討してみることをおすすめします。
2.法的手続きと許認可の取得
歯科医院を開業するには、地域の法的要件を満たし、必要な許認可を取得する必要があります。例えば保健所に開設届を提出したり、保健所に届け出をしたりといった手続きがそれにあたります。
それぞれ期日があり審査に1〜2ヶ月かかることもあるため、スケジュールに余裕を持って進めましょう。
3.施設の準備
続いては、院内設備やインフラを整えます。診療室、待合室、受付カウンターなどの空間設計や、医療機器・器具・歯科材料等を購入・手配します。
その他にも内装工事やスタッフの採用、必要に応じてロゴやウェブサイトの制作、保健所による検査が行われることもあり、対応すべきことが多く忙しくなり始めます。目安としては、おおむね開業の1ヶ月ほど前までには内装工事や機器導入などを終えておくと良いでしょう。
4.スタッフ採用・研修
続いては、開業する歯科医院で働く歯科医師や歯科衛生士、歯科助手、受付スタッフなどのスタッフを採用し、さらに研修を行う必要があります。
同じ方向を向いて日々の業務を進めていけるよう、経営に関する基本的な部分を理解してもらうほか、スタッフ一人ひとりの役割・責任を明確にしておくとスムーズです。
5.広告・宣伝活動
準備の最終段階として、開業を告知し、集患のための広告・宣伝活動を行いましょう。エリアによってはその地域の新聞やチラシが有効な場合もあります。
なお、これらを乗り越えて無事開業できたとしても、開業後の初めの2ヶ月は診療報酬が入ってこないため注意が必要です。自己資金や融資による運転資金を使いつつ、必要経費や人件費が計画通り使われているか、資金繰りに問題が無いか等、適宜チェックを行いましょう。
歯科医院開業によるメリット
ここまでで、歯科医院の開業に必要な資金や準備の流れについて分かったと思います。しかし、そもそも歯科医院を開業することにはどのようなメリットがあるのでしょうか。
歯科医院・クリニックを開業することによる主なメリットは、次の3つです。
- 診療の自由度・柔軟性を高められる
- 努力が収入に直接反映される/されやすい
- 地域社会へ貢献できる
診療の自由度・柔軟性を高められる
歯科医院開業のもっとも大きいメリットは、日々の診療に自身のビジョンや理念をそのまま反映させることができる点でしょう。
上司がいないため、ビジネスモデルや経営方針、医院のコンセプトも自由に決めることができます。自己実現を果たすことができ、自信にもつながります。
努力が収入に直接反映される/されやすい
開業後、経営が軌道に乗ってくると、自分の努力と能力に応じた報酬を得ることができます。努力が直接収益につながるため、成果を実感しやすいでしょう。
地域社会へ貢献できる
歯科医院を開業した場合、多くはその地域に根ざした歯科医院となります。基本的に来院するのは近隣の地域住民であるため、地域の健康と福祉に貢献している感覚が得られます。また経営の自由度からその地域のニーズや要望に応えやすいため、地域社会との密接な関係を築くことができます。
歯科医院開業によるデメリット
歯科医院を開業するにあたっては、メリットだけでなくデメリットも存在します。以下のようなデメリットを十分に理解し、対策を講じた上で歯科医院を開業することが重要です。
- 十分な資金が必要
- マーケットの競争を勝ち抜くための努力が必要
- 集患に時間と費用がかかる
- 法的リスクと責任が伴う
資金が必要
歯科医院を開業する際は、高額な初期投資が必要です。具体的には、物件の購入費用や院内の設備・機材の購入、人件費、法的手続きにかかる費用などが挙げられます。
マーケットの競争を勝ち抜くための努力が必要
先述の通り歯科業界は競争が激しいため、歯科医院開業後に経営が軌道に乗るまで時間を要することがあります。そのため自身の理想を追い求めるだけでなく、近隣の開業歯科医院・クリニックとの差別化は必須といえるでしょう。
集患に時間と費用がかかる
歯科医院を開業後、患者が集まるまでに時間がかかることがあります。地域の信頼を得るには時間を要するため、集患には継続的な努力と費用が必要です。またやっと患者さんを獲得できたと思っても、周囲に歯科医院が多く存在する場合、他院へ流れていってしまう可能性も大いにあります。
法的リスクと責任が伴う
歯科医院を開業する場合、患者の治療に関わる責任やリスクはすべて自身が負うことになります。そのため、いざという時のために正しい知識を身に着けておくことが必要です。法的なトラブルや訴訟等のリスクを考慮したうえで経営しなければならないため、ストレスや負担を大きく感じることも考えられます。
歯科医院開業におけるマーケティング戦略
特に都市部から距離があったり、地域に根ざした歯科医院を開業したりする場合は、効果的なマーケティング戦略を立てることが重要です。
顧客(患者)の分析・ターゲット市場の特定
まず、開業する歯科医院のターゲット市場を明確にします。余裕があれば、開業地域の人口統計データも収集できると良いでしょう。
人口統計データには、住民の年齢層、性別、家族構成等が含まれます。この分析によりどの層をターゲットとするかを検討します。また住民らの健康状態を分析することで、歯科治療に対するニーズも見えてきます。
広告・SNSを活用したオンライン戦略
開業する上で有効なオンライン戦略には、以下のようなものがあります。
- ウェブサイトの制作・SEO対策
- オンライン広告
- SNS活用 など
今は高齢者であってもインターネット上で情報収集を行う時代です。若年層においてはなおさらで、ウェブサイトやSNSアカウント、インターネット上の口コミ等を見て受診するかどうかを決めることも少なくありません。逆にいえば、これらが整っていないと「時代に見合っていない」と不信感を抱かれる可能性もあります。
ウェブサイトは診療内容や医師・スタッフの紹介、治療にかかる費用、医院へのアクセス方法など情報提供の場として役立ちます。またオンラインの予約システムと紐づけることで、気軽に予約できる環境を作るのも集患には効果的です。
こういったウェブサイトは、SEO対策やオンライン広告などにより検索上位に表示させることも期待できます。せっかく費用をかけてウェブサイトを制作しても、患者がインターネット上で検索したときに表示されなければ意味がありません。
加えてマーケティング戦略を練る際は、近隣の他院等、競合施設の分析も必要です。具体的には競合施設の診療内容や料金表、患者層などを分析し、自院の差別化ポイントを把握し打ち出しましょう。
歯科医院開業後に意識すべきこと
開業歯科医院の経営を上手く維持するために、意識すべきことがいくつかあります。
スタッフの管理・マネジメント
院内スタッフとの情報共有・意見交換は意識的に行います。またスタッフ一人ひとりに長期目標・短期目標を設定してもらい、業績や成果を定期的に評価・フィードバックするのも効果的です。
スタッフが「適切に評価されている」と感じることは、スタッフのモチベーションと向上心にもつながります。
患者満足度の維持・向上
カウンセリングなどの初診時には、ほとんどの患者が何かしらの悩み・不安を持って来院します。患者の話を傾聴し、疑問・質問に真摯に対応するだけでなく、治療計画・内容をわかりやすく丁寧に説明することで患者との信頼関係を築けるでしょう。
またオンライン予約システムや自動精算機の導入等、患者の予約〜治療開始までの流れをスムーズにすることで、「通院のストレスが少ない」「待ち時間が少ない」など患者満足度の向上につなげられます。
患者数が増えてきたら、患者アンケートを実施し自院に足りないものや改善点を把握するのも一つの手です。
治療の質の維持・向上
設備・機材は定期的に点検やメンテナンスを行い、安全性を確保しましょう。最新の設備・治療方法を積極的に導入することで、費用はかかるものの治療の質の向上につながります。また自身だけでなくスタッフとともに研修等に参加することで、スタッフの技術・知識と医院全体の治療の質向上につながります。
まとめ
歯科医院を開業するために必要な準備や流れについてお伝えしました。開業後スムーズに経営を進めていくためには、余裕を持った準備が必要であることをお分かりいただけましたでしょうか。また、無事開業できたとしても、経営状況をできるだけ早く安定化させる必要があります。
その方法の一つに、予約システムやサブカルテの電子化も挙げられます。予約システムを導入すると、患者様はオンラインで手軽に予約することができる上、院内では予約の管理やスケジュール調整を効率良く行えます。
またサブカルテの電子化は、紙のカルテよりも情報の取得や更新が容易であり、患者の情報に迅速かつ正確にアクセスできます。
これらにより患者の待ち時間が短縮されれば、患者満足度が向上し、リピーターの増加や口コミによる新規患者の獲得にもつながります。
歯科医院を開業した後、しばらく経ってからこれらに取り組むと、移管に多くの時間と労力を要します。そのため開業当初から使用するものとして準備を進めておくと良いでしょう。
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