【歯科衛生士の退職理由から学ぶ】定着率向上のための職場改善案を解説

2024年5月21日

歯科衛生士の退職理由を知ることは、定着率向上に欠かせない職場改善のカギを握っています。この記事では、歯科衛生士の求人事情を踏まえ、高い離職率の背景や心理について解説します。さらに、定着を促すための具体的な改善策もご提案します。

1 歯科衛生士の離職と採用難の実態
2 歯科衛生士の退職理由6つ
3 【歯科衛生士の退職を未然に防ぐ】職場環境の改善策6つ
4 歯科衛生士から退職を相談されたときの対応方法
5 まとめ

歯科衛生士の離職と採用難の実態

歯科衛生士の有効求人倍率は年々上昇傾向にあり、2022年時点で22.6倍※に達しています。歯科衛生士にとっては選択肢が豊富で、自分に合った職場を選びやすい環境ですが、一方で経営側にとっては人材確保が難しい状況を示しています。

実際、歯科衛生士は70％以上の人が転職経験を持っており、そのうち50%以上は複数回の転職をしているというデータ※もあります。転職回数が多いことからもわかるように、歯科衛生士は自分の働きやすい環境を求めて柔軟に動く傾向があるといえるでしょう。

※参考：歯科衛生士の勤務実態調査報告書

また、歯科衛生士の名簿登録者数は約30万人ですが、実際の就業者数は約14万人に過ぎません※。登録者数の半数が歯科業界から離れているという状況は、業界の労働環境に対する経営課題を示唆しているのではないでしょうか。

※参考：衛生行政報告例、歯科医療振興財団の調査

歯科衛生士の退職理由6つ

歯科衛生士が退職を選択する理由は多種多様です。経営者としては、これらの退職理由をよく理解し、適切な対策を講じることが重要です。以下は、歯科衛生士の主な退職理由です。

結婚・出産などプライベート環境の変化
職場の人間関係
労働環境への不満
業務内容とスキルの不一致
他業種への転職希望
気兼ねなく相談できるスタッフの不在

それぞれ簡単に解説していきます。

理由1：結婚・出産などプライベート環境の変化

結婚や出産、親の介護、配偶者の転勤など、ライフステージの変化は、歯科衛生士が退職を選択する大きな理由となっています。

特に小規模な歯科医院ではスタッフ数が少ないため、産休や育休中の穴を埋めるのが難しく、復職後も勤務時間調整が難しい場合があります。これらにより、家庭との両立が困難と感じる歯科衛生士が退職するケースが見受けられます。

理由2：職場の人間関係

職場の閉鎖的な人間関係を理由に、退職を選択するケースもあります。歯科医院はスタッフ数が少ない傾向にあるため孤立が生じやすく、居心地が悪く感じることがあります。

また、院長が唯一の上司であることでスタッフが率直な意見を述べることが難しくなり、コミュニケーション不足やストレスの原因となって退職につながることがあります。

理由3：労働環境への不満

労働環境に対する不満も退職理由の一つです。給与や福利厚生が不十分と感じたり、本来の業務に集中できない状況に不満を抱く人もいます。

特に人手不足の歯科医院では、歯科衛生士が本来の業務に十分に取り組めず、受付業務や雑務などに追われて歯科衛生士本来の仕事に集中しづらいといった理由により、問題が生じやすいです。

また、歯科医師からレントゲン撮影や歯に詰め物を詰める行為など、歯科衛生士の業務可能な範囲を超える不適切な指示を受け不信感や不満を抱くケースも少なくないようです。

理由4：業務内容とスキルの不一致

業務内容と自身の持つスキルの不一致が理由で退職を選択することもあり得ます。雑務に追われる中で、本来スキルを高めたい予防処置やメンテナンスがうまく行えず、不満が溜まる歯科衛生士も多いでしょう。

その一方で、新卒の歯科衛生士が責任ある仕事を任されて過剰な負担がのしかかり、その結果、退職に至るパターンもあるようです。

さらに、一般歯科の業務に携わるうちに、矯正歯科や小児歯科など、より専門性の高い分野の歯科医院で働きたいと考える歯科衛生士も一定数存在します。

理由5：他業種への転職希望

他業種への転職を理由に退職を選択するケースもあります。歯科業界は専門性の高い仕事であり、合う合わないが明確に分かれるため、実際に働いてみて他の職種の方が向いていると感じる歯科衛生士も少なくありません。

理由6：気兼ねなく相談できるスタッフの不在

気軽に相談できる先輩や院長がいないことが、退職理由となる場合もあるでしょう。

「退職したい」と追い込まれる前に、その気持ちに至った理由を明確に説明し、適切なサポートやアドバイスを受けることができれば、退職を考えるようなネガティブ思考を生じる前に、問題を解決できたのかもしれません。

「気軽に相談できる環境がある」ということは、心理的安全性を高める重要な要素といえます。

【歯科衛生士の退職を未然に防ぐ】職場環境の改善策6つ

歯科衛生士の定着は職場環境に大きく依存しています。つまり、良好な環境さえ整っていれば、退職という事態は避けられる可能性が高まるということです。

以下は、歯科衛生士の退職を未然に防ぐ職場環境の改善策です。

職場環境の整備
スキルアップの機会を与える
相談しやすい職場づくりに努める
新人歯科衛生士へのフォロー体制
スキルに見合う待遇への改善
業務負荷の軽減と効率化

改善案1：職場環境の整備

歯科衛生士の退職リスクを軽減するには、職場環境の整備が非常に重要です。特に、歯科衛生士の99%が女性である※背景から、産休や育休制度の整備は欠かせません。
一例として、週休3日制を導入したり、早帰りが可能なシフトを取り入れてワークライフバランスを実現している歯科医院も存在します。

柔軟な働き方が選択できれば、家庭と仕事の両立がしやすくなり、優秀なスタッフの確保にもつながるでしょう。
※参考：歯科衛生士の勤務実態調査報告書

改善案2：スキルアップの機会を与える

歯科衛生士のスキルアップの機会を積極的に提供することも、定着に有効です。教育担当者やカリキュラムの設置を通じて、歯科衛生士のスキル向上をサポートしましょう。

継続的な教育プログラムの実施は、専門知識の獲得や業務の充実感を得られるだけでなく、院長や他のスタッフが懸命に時間と労力を費やしてくれたことに対する感謝と愛着が生まれ、定着しやすくなるというメリットもあります。

改善案3：相談しやすい職場づくりに努める

退職を未然に防ぐためには、相談しやすい職場づくりに努めましょう。派閥のない良好な雰囲気を保ち、スタッフが働きやすい環境を整えます。具体的には、定期的なミーティングやランチ会、個別面談などを通じて、スタッフが気軽に意見や不安を伝えられる場を可能な限り提供しましょう。

スタッフ間のコミュニケーションが活性化すれば、孤立感を解消し、相互理解が深まって職場全体の協力体制が生まれやすいです。

改善案4：新人歯科衛生士へのフォロー体制

経験の浅い歯科衛生士は業務に不慣れなことがあり、適切な相談タイミングを見逃しがちです。そのため、新人歯科衛生士には専任のサポート役を配置することが新人育成に効果的です。
定時後には、サポート役が定期的に「何か困っていることはないか？」とヒアリングし、不明点を解決していくことが、新人歯科衛生士を即戦力に育てる最短ルートとなり得ます。